![]() |
安すぎる慰謝料、何とかならないのだろうか? |
1 | 今回は慰謝料のことで私が常々、考えているところをご紹介しようと思いました。 慰謝料とは、民法710条に根拠があるのですが、他人の故意または過失に基づく行為によって、自分が人格的不利益を被って精神の平穏を害されたとき、そのショックを金銭的被害に見立てて、賠償してもらおうというものです。 ですから、本来、金銭に換算できないものを、あえて金銭に置き換えて請求することになりますから、基本的に相場はあってないようなものといわざるを得ないもののはずです。 実際、同じ被害を受けてもその人によって感じ方は様々なはずで、慰謝料の金額などおよそ一定の範囲で相場を決めようということ自体ナンセンスなはずです。 |
2 |
しかし現実には、慰謝料も、案件ごとに相場が相当程度に決まっています。 |
3 | 前記のような慰謝料の算定についての硬直的な運用も問題ですが、交通事故の場合以外は、それほど慰謝料の算定が凝り固まっているということはありませんのでまだよいということもできます。 私がより重要な問題だと思うのは、慰謝料相場が総じて安すぎるということなのです。 |
4 | 確かに新聞記事などを見ると、マスコミなどで名誉毀損の被害にあったときなどの慰謝料は最近、高額化してまいりました。しかしそれはむしろ珍しいのであって、一般の生活をしている人が日ごろ、他人から受ける人格権侵害に対する慰謝料は一般的に言ってほとんど雀の涙ほどでしかありません。 私が担当した中でいくつかご紹介しましょう。 まだストーカーという言葉が世間で認知されるようになりかけた頃、調停を申し立てた案件です。まだ裁判所の問題意識も低かったのかもしれませんが、約半年にもわたりストーカー被害を受けた場合の慰謝料として、調停委員から相当な金額として提示されたのは20万円くらいで考えてほしいというものでした。しかも加害者側も反省して、60万円くらい支払っても仕方がないと言っているのに、「そんな高額の和解を裁判所で認めることはできません。」とまで言われてしまったことがあります。私は思わず耳を疑いました。 「20万円で済むなら、ストーカーをしてみよう。安いもんだ。」と思う人が出てくるのではないでしょうか。 またご近所どうしで仲が悪く、10年くらいの間に散発的に嫌がらせを受けてきた方の事件を担当したことがありました。そして最後には暴力事件にもなってしまったのです。暴力の方は目立った怪我をするようなひどい事件ではなかったですけれども、背景として長年の嫌がらせの末ということでもありましたから、依頼者の精神的苦痛は決して小さなものではありませんでした。しかし裁判所で認められた慰謝料は30万円にも届かないものでした。この程度で済むということは、気に入らない人を一発、殴ってストレスを発散した方がよいということでしょうか? |
5 |
「やったもん勝ち!」 |
6 |
また日本では、弁護士が少ないため、多くの市民がリーガルサービスを受けられず泣き寝入りを強いられていると叫ばれています。確かにそういう一面はあると思います。しかし、それは弁護士が少ないからというだけではなくて、頑張って裁判に訴えてみたところで、満足な結果を期待できないという思いがあるからであることは間違いありません。 |