「先生のご専門はなんですか?」




 よくお客様や個人的に始めてお目にかかった人などから尋ねられるご質問に「ご専門は?」というのがあります。
 そう尋ねられるたびに、「特に専門などというものはありませんよ。普通の人が日常的に直面することがあるようなトラブル一般を取り扱っています。いわゆる一般民事ですかね。」というようなお答えをするようにしております。しかしこのように答えると、ある程度、もともと弁護士に接した経験の比較的多い方などは「なるほど」という感じで御納得いただける場合も多いのですが、あまり弁護士に接したことがなく、初めて弁護士に相談しようという方などは、自分の抱える問題についての「専門家でもなさそうだし大丈夫なのか」という不安感を顔に浮かべる方も少なくなく、このご質問は本当に答えにくいご質問となっています。

とにかく今回は、日本の平均的な弁護士には、特に決まった専門分野などないということを知ってもらいたいと思います。
 なぜかというと、弁護士がある特定の分野の問題しか取り扱わないとして打ち出してしまうと、限られた依頼者の間で、その特定の分野のトラブルが起こる確率は小さいため、結局、事件の依頼を受けることが少なくなってしまい、自分の生活が維持できなくなってしまうからです。普通の生活を送っていれば、人は、そんなに法的トラブルに巻き込まれることはありません。従って弁護士としては、相談を受けるトラブルについて贅沢をいうことは許されず、広く網を張っていなければならないわけです。
 例えて言えば、弁護士は村の開業医なのです。大学病院の立派な大学教授ではありません。村の開業医に期待されているのは、どんな怪我でも病気でも臨機応変に適切な措置をしてもらうことにあると思いますし、弁護士についても同様なのです。もちろん専門分野があるにこしたことはありませんが、むしろ求められているのは何にでも対応できる多様性と柔軟性でしょう。

 しかしこれから弁護士の数を増やそうというのが社会の流れです。それというのは弁護士が都市部に集中しており、地方では弁護士が一人もいないような所さえ多いという実情があるからです。つまり、地方においては、まだ村の開業医としての弁護士が不足しているということです。
 しかし同時に、都市部においても、同時に弁護士の世界での大学病院に当たる専門分野が明確に固まって、専門的かつ高度なリーガルサービスを提供できる弁護士が少ないとも指摘されているようです。それは確かにそのとおりで、反論することは難しいところです。我々弁護士としても将来を見据えて、どう対応するべきか、まじめに考えなければならない状況に置かれております。
 ただ、医療とは異なり、訴訟活動についていうと、開業医では対応できず、専門医でなければならないような高度のリーガルサービスというのが何なのか、何も線引きができておらず、あくまでも気分的なもの、相対的なものでしかないように思っています。
 もちろん現在でも、比較的専門性が必要とされる特許や国際的商取引の問題、医療過誤の問題などについては分かるのですが、その他の一般的分野についてまでそのような線引きが可能なのでしょうか? 
 これから弁護士の数が飛躍的に増え、競争が激しくなることが予測されますから、特徴を出すために専門分野を固めた方がよいのかと考えないわけでもないのですが、一般の弁護士で対応すべき範囲と、それでは無理と思われる範囲との線引きができない以上は、やはり特別の専門分野を打ち出すのは却って営業戦略上も拙いのかなと思っています。
 という次第で、21世紀を迎えても、私はしばらく特に専門分野はありませんと答え続けるつもりでいます。  

しかし専門分野は特に打ち出すわけではなくとも「得意分野」というのは、確立していかなければなりませんね。
 ただこれは経験に基づく自信ということにほかなりませんから、皆さまからのご相談、ご依頼の蓄積で自然に醸成されていくことだと思っています。
 まだ私はいずれの分野も経験豊富とはいえないので、自ら「得意分野」を挙げるようなおこがましいことは致しませんが、今多い依頼を踏まえて考えていくと、離婚に関わる問題や、自己破産に関わる手続が得意分野になっていきそうです。
 ですが、本当は悪徳商法の問題などに関心があるので、いつかは得意分野といえるようになりたいなと思っています。



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