地方在住者への弁護士からのメッセージ



 弁護士が東京や大阪などの大都市ばかりに集中しているという問題は既にご案内のとおりです。かくいう私も東京弁護士会に所属し、東京で弁護士をしております。法律紛争は、人が集まっていろいろ軋轢が生じるところに発生するのですから、人口密度の高い都市部で需要が大きいことは当然ではあります。しかし地方でもその地方の中核的都市があるわけで、そこには東京ほどではないにしても紛争は日々発生しております。その割には地方都市での弁護士が少ないのは確かです。なぜなのでしょうか。
 その理由の一つは弁護士の活動は日本全国で可能であるということなのかと思っています。つまり東京の弁護士は都内でしか活動できないのではなく、首都圏全域はおろか、北海道だろうと九州だろうと関西地方だろうと、どこにでも事件の依頼があれば出かけていって仕事をすることができるということです。いやもちろんこれは東京の弁護士だけでなく、地方の弁護士が東京で事件をすることももちろんできるわけなのです。しかしこれがどうして地方で弁護士が少ないことの理由になるかというと、地方都市に存在する大手企業の支店、営業所は、地元の弁護士に事件を依頼したり、顧問弁護士になってもらったりすることが少ないということにつながっているということなのです。現実に事件になることは年に何度もあるわけではないので、支店ごとにその地方の弁護士にそれぞれ顧問料を支払ったりすると非効率的であることは明らかです。それよりも本社でいつもお世話になっている弁護士に、たまに起こってしまった事件があれば出張してもらって、その旅費を負担する方がまだ経済的だということだと思います。その結果、地方の事件についても東京から弁護士が出かけてくるということになるのです。まして交通網が発展してくるに及んで、日本全国、東京からは日帰り可能になってきております。また民事訴訟法が改正されてからは、事件の当事者にとって、裁判所が遠方にあって出頭が困難な場合などは、場合によっては裁判所から電話がかかってきて電話で裁判官と話をすることで裁判所への出頭に換えることも可能になりました。こうなるとますます大都市圏の弁護士が地方の事件を処理することが容易になってきたということになります。
 理由の第二は、大都市に本社がある会社が締結する契約書などには、予め紛争が起こったときには本社所在地で裁判をするという趣旨が取り決められていることが少なくありません。そのために地方で処理されてしかるべき案件まで大都市で裁判されるということにもなるのです。
 こうなると地方経済で大きな比重を占める大企業の支店、営業所の関係する事件は、地方の地元の弁護士にはほとんど関係がないことになり、いきおい弁護士が少なくなってしまうということなのでしょう。日々、ストレスがたまる東京で生活する私にとって、出張するのは気分転換になるので、個人的には好きです。それも交通費は依頼者に負担していただき、場合によっては日当もいただけるのですから、悪い話ではありません。しかし地方に住む一般市民の利益を考えると、やはり望ましいことではない気がします。確かに出張費を負担できる能力のある会社はよいのですが、個人の方はどうなのでしょうか。わざわざ東京の弁護士と顧問契約を締結しているという個人の方はまずいらっしゃらないと思います。そうすると日当も減額されないだろうし、事件が長引くとそれだけで最初から相手の主張を受け容れていても経済的には同じだったなどということにもなりかねません。しかも地元の弁護士は数が限られており、地方によっては弁護士が一人か二人なので、相談に行こうと思ったらその弁護士が既に相手が先に相談していたために相談できる弁護士がいないなどということになるところもあると聞いております。
 
しかしながら、結局は弁護士が大都市に過剰に存在し、地方で不足しているというのも、日本社会の一極集中型社会構造も影響していることであり、一朝一夕には解決しないことでしょう。
 とりあえず地方にお住まいの方の対策としては、インターネットが発達してきましたし、弁護士のホームページなどで少なくとも法律相談はできるようになりました。地元に弁護士がおられなくとも、大都市圏の弁護士に相談することは容易になりました。そのようにして日ごろから信頼関係を作っておいて、事件処理の必要が生じた場合に、日当、旅費の負担についても減額を交渉し、依頼してみるのも一つの手でしょう。日ごろから接触のある方のご依頼だと、何とかサービスしてあげようというのが弁護士の本能の一つなのでそれをくすぐるということですね。弁護士の活動範囲が全国区であるということの利益は、地方にお住まいの方、皆さんも享受するべきなのです。

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