NO.12

離婚して子育て中のお母様、朗報です。  

 養育費回収のための給与差押えは、原則として、一度だけで済ますことができるようになります!



1  これまで「子供の養育費はきちんと支払うから」という約束で子供を引き取って離婚したのに、いつのまにか全く支払ってくれなくなったとか、勝手に一方的な都合で減額されたなどという嘆きは本当に多かったです。
  これまでも家庭裁判所の調停や審判で養育費が約束されたときには、家庭裁判所に申し立てて、離婚した元の配偶者に対して養育費の支払を裁判所の権限で勧告してもらったり、命令してもらったりすることができました(家事審判法15条の5、6、同法25条の2)。しかしこれはあくまでも元配偶者に養育費を約束に従って支払うよう勧告したり命令したりするだけで、無視されることさえありました。
  尚、少しわき道にそれますが、この履行勧告、履行命令の制度は家庭裁判所での制度でしたので、離婚が家庭裁判所の調停ではまとまらず、地方裁判所での離婚裁判で決まったときには対象外でした。しかしこれについても今般、調停不成立後の離婚訴訟も家庭裁判所で審理されることになりましたので、それに伴い、調停で離婚が決まらずに訴訟にまで持ち込まれた場合でも、履行勧告や履行命令の申し立てをすることができるようになります(人事訴訟法38条、39条)。
  また調停、審判で養育費が決まった場合はもちろん、裁判所での判決、裁判の過程での和解で養育費について約束したとき、裁判所に行かずとも養育費について約束したことを公正証書にして作成しておいたときには、相手の給料などを差し押さえて、元配偶者の勤務している会社などから、直接、養育費を支払ってもらうことにして回収することは、もちろん可能でした。
 前述の履行勧告、履行命令の制度では無視されたらそれまでという限界がありましたから、これこそが養育費の回収の最終手段です。
  しかし養育費は月々支払ってもらう性質の債権ですし、民事執行法の原則は約束で決まった支払期日を経過した分の養育費しか差し押さえることはできませんでした。つまり必ずきっちりと養育費を回収しようとすると、毎月、毎月、根気よく差し押さえの手続を反復しなければならないわけです。その手続のために3000円の収入印紙を貼らなければならないほか、裁判所に離婚した元配偶者及びその勤務先の会社に差し押さえ命令を送る費用を負担しなければなりませんから、毎回、1万円程度の実費が必要です。養育費は1ヶ月3万円とか5万円とかである場合が多いですから、全く割が合いませんでした。
  もちろん現実には、例えば2年分貯めてまとめて差し押さえをするなどということで面倒を回避することもできましたが、逆にいうと、その間、元配偶者からの養育費抜きで子育てを辛抱して続けなければならないということです。そしてとうとう面倒になって泣き寝入りということになるのが多かったのです。

 ところがこれが改正されたのです。
  簡単に言うと、一度でも元配偶者が決められた養育費の支払を怠ったときは、将来の養育費分もまとめて差し押さえをすることができるようになったのです。これからは一々毎月、こまごまと同じ差し押さえ手続を繰り返さなくともよくなったのです(民事執行法155条の2)。
  こうなりますと、そのまま泣き寝入りせず、一度でよいのだから差し押さえをしてみようという意欲が湧きますよね。
  これが如何に素晴らしいことかは、体験している人ならお分かりでしょう。またそうでなくとも、前述したところを踏まえて自分の立場に置き換えて想像してみてください。改正される前と後とで如何に違うかを。

 そして、関連して改正されたポイントがもう一つあります。
 もともと給料等を差し押さえるときは、全額差し押さえることはできず、給料等の手取額のうちの4分の3は差し押さえることができません。つまり差し押さえは4分の1の範囲でしかできませんでした。もっとも手取額の4分の3にあたる金額が政令で定められた一定金額(現在は1ヶ月あたり21万円)を超えるときは、その政令で定められた一定の金額が差し押さえられないだけで、4分の1の範囲を超えて差し押さえることはできます。
  なぜかというと、もし給料の全額を差し押さえられてしまうと、その人の日常生活が維持できなくなり、極端なことをいうと人権問題にもなりかねないからです。
 これまでは、上記の差し押さえ可能な範囲についての法律の規定は養育費の支払を求めて、給料等を差し押さえるときも同様でした。
  しかし考えてみると、養育費というのは、本来、もし夫婦が離婚しないでいた場合、当然、給料から捻出していた正に日常生活に必要な費用のはずです。つまり養育費は、日常生活のために確保しておこうという金額の中から、支払われることが期待されるべきもののはずです。
  そこでこれまでの制度が見直されて、養育費などについては、特別に差し押さえできないのは給料等の手取金額のうちの2分の1であるとする例外が設けられることになりました。そして手取金額の2分の1にあたる金額が政令所定の金額(現在では1ヶ月辺り21万円)を超えるときは、政令所定の金額を超える範囲では全額差し押さえることができるのです(民事執行法156条3項)。
  もっとも差し押さえることが可能な範囲が拡大したからといって、養育費の回収が容易になったことには直ちにつながらないようです。
  なぜかについては、難しくなるのでここでは触れなことにします。
  ですがそれでも、少なくとも気分的には、一度差し押さえられれば、永久に差し押さえの効力が持続することと併せて、元配偶者には相当なプレッシャーになるでしょう。
  だとすると、家庭裁判所の履行勧告程度でも、元配偶者が任意に養育費を支払うようになってくれることもこれまでより期待できるかもしれません。

しかし更に次の問題があるのです。
 日本の会社では、給料が債権者に差し押さえられるような人は嫌われることが少なくありません。別に会社にとっては、従業員に払う分の一定額を債権者に支払うだけなので計算上不都合は何もないはずなのですが、一身上のトラブルを会社に持ち込むとは情けない、使えない人間だと烙印を押す人事担当者が少なくないのです。給料が差し押さえられたなどという不名誉な事態は、リストラの格好な口実になってしまいそうです。
  すると、せっかく給料を差し押さえても回収できる前に、会社を辞めさせられてしまうのではないかという問題が残るのです。
  そこまでいかなくとも、不景気の今はさすがに少ないかもしれませんが、景気がよく転職も簡単だったときには、給料が差し押さえられたら馬鹿馬鹿しいので、転職してしまおうと、自主的に会社を辞めてしまう場合もあるのです。
  この問題も、これまで養育費の回収のため、給料の差し押さえをするのをためらわせる大きな要因になっていたのです。
  ただ、今般の改正では、そのようなことになってもなお養育費の踏み倒しは許さないと元配偶者を追いかける方法が新たに設けられたのです。効果の程はやってみないとまだわかりません。しかし一応、これについてもご紹介する必要はあるでしょう。
 この制度については、次のトピックで取り上げることに致します。