NO8.
 「現金が取り急ぎ必要な方、クレジットカードで即現金化できます」とかいう趣旨の広告を見かけましたが、どういうことでしょうか?



1  このごろ、東京都内などではこの種の小型の立て看板型の広告を見かけるようになりました。駅を出たところにさりげなく看板が置かれていることが多くなっています。
 
そもそもこの広告の意味が正確にどのようなものを意味しているのかわかりにくい向きもあるでしょう。私も本当のところは分からないことを予めお断りしておきます。あくまでも以下の記述は私の弁護士としての経験に基づく推論によるものです。このようなお断りをするのは、以下の記述を見て、ここで問題とする広告主の業者から予断と偏見に基づくもので営業妨害だといわれたくないからです。
 という次第であくまでも推論ですが、この種の広告の意味するところは、クレジットカードで商品を購入したことにして、その商品を買い取りましょうということだと思います。
 それが何だと思われるかもしれませんが、多くの消費者金融会社から金銭の借り入れをしていたり、クレジットカードで利用できるキャッシングサービスやカードローンもいろいろなところで多く借りている状態にある場合(われわれ弁護士は「多重債務状態」、そのような状態に陥っている人のことを「多重債務者」といいます)、もうこれ以上、金銭を借り入れることが難しくなってまいります。各金融会社は貸し倒れを避けるためにそれぞれ利用限度額を設定しているからです。
  多重債務者にとっては、多くの借金を返済するためにはさらにお金が必要です。給料等の月々の収入のみではとても追いつきません。破産すればよいのかもしれないけれども、借りたお金はやはり返さなければいけないしどうしたらよいのでしょう。そこで現れる救いの神が、商品の買取に応じてくれる業者というわけです。
  多重債務者といっても、クレジットカードで品物を購入するなどはあまりしていないので、商品等の購入についてはまだ利用可能なわけです。ただ商品を購入しても何の意味がないのですが、それを買い取ってくれて現金になるのであれば助かるわけです。
 しかしそこで問題が生じます。多重債務者にとっては当座の現金が手に入ったわけですが、クレジットカードの支払日には商品等の購入代金を決済しなければなりません。つまりクレジットカード会社からお金を借りたのと結果的には同じようなことになります。決済できれば問題は表面化しませんが決済できないとすると、クレジットカード会社としては非常におもしろくありません。せっかくキャッシングなどの利用限度額を設定して貸し倒れを防ごうとしているのに、それが機能しなかったことになります。また、商品の買取に応じた業者は、多重債務者のために現金を支払っているのですが、結局、その業者は全く懐を痛めていません。つけはなぜかクレジット会社に回されてくるというわけです。
  従って、クレジットカード会社としては、このようなことが認められた場合、その多重債務者に対しては厳しい対応を取る場合があります。
 即ち、多重債務者が万策尽きて破産申し立てをしようとしたときなどに、破産について審理する裁判所に、現状を報告して免責を認めさせないようにアクションを起こす場合もあります。
  そもそも破産宣告を出すということは、もはや債務が多すぎて支払を続けることが不可能になったということを裁判所に確認してもらうということです。しかしそれだけでは何の意味もありません。支払が不可能になったからといって直ちに借金地獄から解放されることを意味しないのです。ただ破産宣告に続けて免責許可(債務の返済義務を免除するということ)を得てはじめて借金地獄から解放されるわけですが、債務が膨らんだ事情が浪費によるものだったり、破産宣告を避けるために無駄な抵抗を続け、余計に不利な条件での負債を膨らませてしまったり、クレジットカードなどで購入した商品を不利な条件で処分したときなどには免責が認められないわけです。
  つけを回された形のクレジットカード会社が、その債務者の免責を認めさせまいとして動くのは当然ありうることなのです。仮にクレジットカード会社が許してくれても、破産を審理する裁判所がクレジットカード利用の不自然さに気が付いて追求されて、結局免責が許可されないということもありうるのです。
 というわけで冒頭の広告の誘いに乗って現金をもらうと、後で却って面倒なことになるのかもしれないということを知っておく必要があります。
 そしてもうひとつ問題があります。それはクレジットカードを利用して商品を購入した場合、売買代金をクレジットカード会社に完済されるまでは、その商品の所有権がクレジットカード会社に移っているという取り扱いになっていることが普通であるということです。特に割賦で支払えばよい形のクレジットの場合は必ずこのようになっているといってもよいでしょう。つまり代金を支払ってくれないときにはその代わり、その商品を返してもらうことで回収しようというわけです。
 だとすると、まだ代金を決済していないのに商品を買い取ってもらうとなると、他人の物を勝手に処分したのと同じことになってしまいます。
 これが許されないことはもう言うまでもないでしょう。
 ここで述べたようなことは、これまでにもあったことです。それが最近になって駅などの広告で目立つようになってきたということは、どういうことなのだろうかと思っている今日この頃です。おそらく、今までの違法な買取とは違うのだということなのだとは思っていますが、違うのであればどのように違うのかと疑問をもっています。
 とはいえ繰り返しになりますが駅などの広告が上記のものと違うものなのかもしれません。その場合にはどうかご容赦ください。