NO.9 | 共有している財産の分割とその落とし穴 |
1 | 今回は、共有状態にある不動産などの分割の際に思いもよらない不都合な結果にならないよう、気をつけておきたいことを一点だけご紹介しようと思います。 | ||||||||
2 | まず基本的な予備知識の紹介から致します。民法を勉強したことがあったり、共有物の分割方法や持分権は自由に譲渡できるなどということくらい知っているよという方は、しばらくご辛抱ください。
共有物の分割はいずれにしろ、共有者各自に持分権に応じて公平になるようにするというのが大原則です。ところがこれには落とし穴があるのです。抽象的に言葉で説明するのは難しいので具体例を示す形でご紹介します。 今、A、B、C三人の共有者がいたとします。その共有持分は各自3分の1、共有物の時価が1200万円だったとします。そして共有物を第三者に売却してその売買代金を分ける方法で共有物の分割をしようとしたとき、Aの知らないところでBとCが話し合ってCの持分権をBに1000万円で譲渡することになったとします。 持分権こそが共有状態下における所有権なのですから、持分権の譲渡価格をどのように取り決めてもB、C間の自由であって、Aの出る幕はありません。ここが肝心なところです。 すると、どうなるでしょうか? B、C間での持分権の譲渡がされて後に、共有物が第三者に1200万円で売却されたときは、特に問題は生じません。Aは持分に応じて400万円の配分を受け、Bは、800万円の配分を受ければよいのです。ところが持分権の譲渡と共有物の第三者への売却が同時にされてしまうと、大変なことになります。つまり、1200万円のうち、1000万円がCに支払われてしまうと、残りの200万円だけをA、Bで分けることになってしまうのです。 |
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4 | こう書くと、いやいや共有物の売却代金からAは間違いなく400万円を受け取れるはずで、Cは残りの800万円を受け取ればよく、不足の200万円は、Bが自分の責任でCに支払うことになるのではないかという反論が出るでしょう。にそのとおりです。しかしAが面倒を嫌って、売却などの手続を他の共有者に任せていたとしたら、BがAに支払うべき金額を確保しないまま、売買代金からCに1000万円を支払ってしまうことは大いにありうることなのです。そうなったらもう後の祭りだということなのです。 | ||||||||
5 | 私の考えでは、このような状況下で共有者の一部が持分権の譲渡をするということは、適切な共有物分割を妨げるものであるにほかならず、脱法的なものであり、持分権の譲渡とは名ばかりであるといわざるを得ないと思います。というのは持分権の譲渡をする当事者は、今、共有物の分割手続きが同時にされているということを認識しているはずだからなのです。従って、Aの持分権を侵害してまで過大に取得したCはAに対して、Aの持分に相当する金額を返還するべきなのではないでしょうか。 ところが裁判所では形式的にでもBC間で持分権の譲渡契約が成立していれば、Cが譲渡代金を取得するのは何ら問題ないと判断されてしまいます。 とすると結局、Bの手元にもはや金銭が残っていない以上、Aは諦めるしかないという結論になります。 |
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さて、このような非条理に直面しないためには、決して共有物売却の際には人任せにせず、自分も積極的に関与し、代金決済時には自ら立ち会うようにするということしかありません。
また、逆にこのトピックを見たからといって法の抜け道の一つとして悪用しないようにお願いいたします。 |