民事新受件数減少の怪、その原因分析      




1    表題の「民事新受件数」とは、裁判所が一年間に新件として受け付ける民事事件の件数のことです。これが我が国では、平成12年頃をピークに、毎年、減少し続けているというのです。詳しくは下のリンクもご参照になってみて下さい。http://www.trkm.co.jp/sonota/15040301.htm (「小松亀一法律事務所」のウェブサイトより)。
 私も、その情報には何年も前から時々、接しておりましたけれど、最初の内は「弁護士が増えれば、一人一人の実感として案件が減るような印象を持つのは当然で、その情報の真偽は分からない、災害の時にしばしば出回るデマ情報の類ではないか。」と思っておりました。しかし直接、統計資料を調べてみると、紛れもない現実だったのです。
 となるとその原因は何かということです。
 「日本に住んでいる人は皆仲良くなっているのかもしれません。」というのが答えでしょうか。そんなはずはありません。日本人が他人に対して包容力を持つようになり、いちいち細かなことで権利主張をすることがなくなったなどということはあり得ません。むしろ逆に、日本でも様々な格差の拡大が議論されていて、そのこともあってか、経済的な意味だけではなく精神的にもゆとりをなくしている人が多くなっているように感じられます。インターネットでニュース記事に対する閲覧者の投稿の数々を見ると、その印象は深まるばかりです。日本人の権利意識は強まる一方で、他人の置かれた立場や考え方に理解を示し、共感を表すことのできる精神的なゆとりのある人は少なくなる一方のはずです。
  当然、それだけ社会がぎすぎすとし、殺伐としてくれば紛争は増えるはずです。裁判所に持ち込まれる事件も増えなければおかしいはずです。なのに、民事の新件は減少し続けているというのです。一体なぜなのでしょう。
 またそれと関連しますけれども、どういうわけか我々法曹会(弁護士だけでなく、裁判官、検察官も含めた法律に直接関わる職業の業界のことです。)の中で、まともな原因分析をする動きは見られません。これまた不思議なことです。
 私とて、民事新受件数の減少傾向は不思議だと思っているくらいですから、その原因について明確に分析する能力はありません。しかし誰も分析しようとしないので、まずは不肖、私如きではありますが、いくつか原因となっていそうな事象をここで列挙してみたいと思います。もちろん根拠薄弱な仮説の域を出ませんが、それはお許し下さい。
@  まずは経済活動の国際化、グローバル化です。ビジネスの最前線で生ずる紛争は国際的な問題となることが多くなり、日本国内の裁判所に訴訟事件などとして持ち込まれる件数が低下しているということではないでしょうか。
 また工場、つまり生産拠点の海外への移行も影響しているかも知れません。国内の工場労働者が減少するというだけではなく、原材料、部品に関する取引も日本国内で完結する割合が減少していることも考えられます。
   かつては日本人の多くが中流意識を持っておりました。決してお金持ちではないけれども、普通に借金などせずとも生活はしていける、うまくやりくりすれば貯金するのも苦労はしないという感覚です。しかし現在は格差社会とも呼ばれるようになり、多くの人が程度の差こそあれ、生活に苦労を感じたり、将来の生活に対する不安を抱えるようになっています。
 この影響も実に大きいのではないかと思います。日常生活に苦労を感じたり、将来に対する不安をぬぐえないでいれば、余計なリスクのあることは最初から避けて通ろうとするでしょう。リスクのあるようなことに関わらず、普通な人並みの平凡な日常生活をしている限りにおいては、そうそう他人とのトラブルに巻き込まれることはありません。
 また他人に対して思いやりのある優しい人が法的に脇の甘い場合があり、却ってそこにつけこまれ、恩を仇で返される形で紛争に巻き込まれることがあります。しかし自分の生活でもゆとりがなければ、他人に対して思いやりを示す余裕さえなかったりします。
 
   司法に対する失望感が一般に広がって来たということもあるのではないでしょうか。 
 当サイトの記事を読み返してみても、何となく前向きな希望あふれる記事よりもネガティブでげんなりするような記事が多くなってしまっているかと思います。当サイトも営業ツールなので、もっと前向きな記事を多くアップするべきはずなのですが、どうしてもネガティブな記事が多くなってしまいます。
 新聞記事に「原告勝訴。被告の言動、厳しく断罪」等という見出しが出て、さすがは裁判所だと感じて記事をよくよく読んでみると、500万円の慰謝料を請求していたのに裁判所が認めたのはわずか20万円ほどだったというような場合も少なくありません。この記事に接したら、「何だ、これじゃ弁護士費用で消えるだけじゃないか。」というのが率直な感想ではないでしょうか。アメリカみたいに、いきなり数千万円、数億円の賠償を認めるべきだとは思いませんが、せめて裁判に持ち込んで頑張った甲斐があったと思えるような結末がもたらされないのであれば、誰が訴訟を提起しようと思うのでしょうか?
 5  まだまだ他にも原因があるように思います。今後も、原因と考えられることに思い当たったら、随時、C以下を追記していきたいと思います。  



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