法律相談で悩ましい案件に接した場合の対応について(1)・・・・・・どのような案件が悩ましいのか?

 法律相談を受けると、時に悩ましい案件に接するときがあります。
 悩ましい案件といっても、自分の勉強不足や経験不足によって悩むということではありません。そのようなときは、ご相談者にその旨お断りをして、改めて文献調査するなど、検討すればよいだけのことです。もしご相談者がそのような悠長に構えている時間はなくすぐにでも回答が欲しいというならば、残念ではありますけれど、法律相談料を受け取らないまま他の先生に当たるようにとお伝えしてお断りすればよいだけのことです。

 今回、ここで取り上げる悩ましい案件というのは、相談者の置かれた境遇は不当なもので、何とかして差し上げたい、ご相談者のご主張はよく理解できるし、何とかご相談者の要望に応えるよう尽力したいと思ったとしても、現在の法制度や完全に定着した実務にあっては、全くまともに取り合ってくれる見込みのないような案件のご相談を受けたときのことなのです。
 こういうと「法律は、対立し合う権利を公平に調整するために定型的に体系化してルールに定めたものなのだから、保護されるべき人が保護されないなどということはあり得ない。それを思うようにいかないから何とかならないかなどというのはただの我が儘だろう。」と思われるかも知れません。基本的にそれは正しいと思います。しかし我が儘で済ますことのできない場合もあるのです。
 例えば、出世払いで知人に100万円貸したとします。出世払いといっても、貸した相手が成功せず無資力のままであれば、いつまで経っても返してもらえないというわけではなくて、普通なら成否の目処がたつであろうときが返済期限であると解されております。裁判所に訴え出れば、貸し付けた後、5、6年を経過していたならば、いい加減返しなさいという判決が出るものと思われます。しかしそのころに相手が成功せず依然として無資力のままであったら、判決をもらっても意味はありません。そう考えて裁判所に訴え出ることをしないうちに貸し付けてから20年経過したとします。そしてその頃には貸した相手は「出世」していて、100万円程度はすぐにでも返してもらえそうな状況になっていたとします。で、そのような状況で貸した債権者から相談を受けて、相手方に対して貸金の返還請求をしたいといわれた場合、どうすればよいのでしょうか。現在、貸金債権の消滅時効は10年とされています(民法167条)。一般的に貸金の返還を請求してもよいと判断されるであろう時から考えても、14、15年経過しているわけで、消滅時効が完成しているはずであると主張されれば、ゲームオーバーになります。
 また最近新聞報道等で話題になった、貸与型奨学金について貸与を受けた本人が返済できなかったために保証人が保証債務を履行されるよう求められたので、それに応じて支払をしたが、実は自分以外に他にも保証人がいたから、そのもう一人の保証人と折半して返せばよかったのに(連帯保証人ではない普通の保証人については分別の利益がある)、請求されるがまま全額を支払ってしまったというときに、今からでも取り返したいとご相談される場合も悩ましいのです。これなどは民法をよく確認しないのが悪いで済ませられる問題ではありません。なぜなら、現状、保証人になるといえば、それは正式には連帯保証人を意味すると考えなければならない程、原則と例外が逆転してしまっているからです。そのため仮に事前に専門家に相談したとしても、その専門家自身、当然、ご相談者は「連帯保証人」になっておられるのだろうということを前提として相談に乗りますから、「保証人となったのであれば仕方ないですね」等と助言してしまいがちなのです。
 であるにもかかわらず、分別の利益があるはずであるとの指摘は、請求された保証人側で主張しなければならないこととされているわけで、主張すべきことを主張せずに請求されるがままに支払に応じたのだったら仕方がないとされてしまうのです。

 他にもいくらでも、何とかしてあげたいのだが何ともならないというような、悩ましい状況はあり得るのです。

 そのような案件の場合、どのように対応しているのか、また次回にご紹介することにします。