受け取った約束手形の記入漏れにご注意を!

 今回は、約束手形の思わぬ落とし穴をご紹介しましょう。本当につまらないことなのですが、意外にはまり込んでいる人が多いのです。また、それ以上に落とし穴にはまり込んでいる人が目の前にいて、幸運が転がり込んで来るというのに、それに気が付かないで幸運を取り逃がす人もまた多いのです。
 約束手形を受け取ったら、必ず、必要な記入事項が記入されているかを確認する習慣を身に付けましょう。一言でいえばそれだけのことです。それを怠ったばかりに大変な損を被ることもあるのです。

 まず始めに約束手形に必要な記入事項を再確認しておくと、以下のとおりです。

約束手形であることの表示
一定の金額を支払うべきことの単純な約束        
満期(手形の決済日)
支払地
受取人名
振出日(約束手形の発行日)と振出地
振出人の署名

 これらの記載がないと、そもそも約束手形としては認められないということを、もう一度深く肝に銘じる必要があります(もっとも、cについては、空白のままでも一覧払い、つまり約束手形がいつ取り立てに回されても決済するという趣旨のものとして取り扱うという救済規定があるので(手形法76条2項)、その意味では必ず記入しておかなければならない事項とまではいえないかもしれません。)。
  しかし実際はaからgのうち、当座預金を開設して取引している銀行から一定の企画の手形用紙をあらかじめ受け取っていて、それに記入して約束手形を発行する限りは、その手形用紙に最初からaとdは印刷されており、記入漏れについて心配する必要はありません。またbについても金額さえ書き込めば完成する定型文言が印刷されています。
 それ以外の記載事項(b、e、f、g)については記入漏れを確認しなければなりません。それでもさすがにbの手形金額が書かれていないことはないでしょう。50万円のつもりの約束手形が1000万円と何者かにより記入されても、文句が言えなくなるのですからそんな恐ろしい不注意をする人はまずいないと思います。またgがないこともありえません。受け取る人は真っ先にそれを確認するはずです。
 記入漏れが頻発し、またそれを見落としがちなのは、eとfです。受取人の名前、振出日、振出地などいつでも書ける内容で(実際、約束手形の発行の段階では空白のままでも、最終的に書き加えられればその段階で、約束手形として認められる)、約束手形を受け取るときもあまり気にしないようなものです。振出人にとっても敢えて空白のままで約束手形を発行しておいてもリスクがないのです。
 実際、銀行等の金融機関における手形の取り扱いでは、この程度の記入漏れは形式的なものに過ぎないし、目くじら立てても仕方あるまいということで、空白のまま銀行等に持ち込んで取立に回しても支払いに応じてもらえます。そのため、ますます本来、e、fも記入されていないと約束手形として認めてもらえないのだという意識が希薄になってしまうのです。

 そこに落とし穴が待ち構えているのです。
 落とし穴は、その約束手形が振出人から直接に受け取ったものではなく、他の人から裏書されて回ってきたものであるときに起こります。
  約束手形を発行した振出人に対して請求する分には別に問題ありません。銀行などは支払いに応じてくれるし、万一、その他の理由で決済できなかったとき、直接振出人に請求するときまでに記入漏れの部分を書き加えればよいからです。裁判を起こすときでも、訴状提出間際に書き加えても間に合います。更に裁判官に指摘されてから書き加えても間に合います。
  しかし振出人が支払わないからということで、裏書人に対して請求しようとするときには(裏書人も振出人が約束手形を決済しないとき、その支払を保証することについては手形法77条1項1号、15条1項に規定されています。)、既に手遅れになっています。
 裏書人に対して請求するためには、必ず振出人に対して満期日及びこれに次ぐ二取引日内に、「約束手形」を提示すること(取立に回すこと)が必要とされているからです。ここまで言えばお分かりですよね。銀行等に空白のままでも支払ってもらえるからということで、空白のまま取立に回してしまったとき、それは約束手形を提示したことにはならないのです。後になって慌てて書き加えても、もう満期日及びこれに次ぐ二取引日も経過してしまっているので後の祭りです。
  いつでも書き込めるはずのつまらないところを書き込まなかったばかりに手形金が回収できなくなってしまうのです。これが落とし穴です。通常の場合は、何の問題もないはずなのに・・・というところがまた怖いところです。だから約束手形を受け取ったら、空白部分がないかを必ず確認する習慣をつけましょうというのです。

 ところがです。空白部分を残したままの不完全な手形を支払提示しただけで、法的に有効な支払提示していないにもかかわらず、平然と裏書人に対して手形金を支払うよう裁判を起こす人がいます。振出人に対するときと同様に、今からでも書き加えてしまえばよいと誤解しているのか、それとも書き加えてしまえば、銀行等に取立に回したとき、空白のままだったかどうかわかりはしない、ばれないだろうと考えているのかはわかりません。
  これがまた怖いのです。
 裏書人としても、裁判まで起こされるわけですから、まさか、その約束手形が取立てに回されたときに記入漏れがあったなどとは疑うこともできずに、みすみす相手が落とし穴にはまったことに気が付かないまま、手形金額の支払を余儀なくされてしまうことも少なくないのです。実際、裁判所に提出された限りでは、約束手形として記載されるべき事項はすべて記載されているし、一見しただけではわからないのです。
 しかし取立に回されたときに、約束手形に記入漏れがあったか否かについては銀行に写しが残されています。それを確認すれば、一目瞭然、相手が落とし穴にはまっていたかどうか確認することができます。裏書人としては、そのような調査をすることに思いが及ぶかどうか、そこが肝です。

 わたしも裏書人から依頼されてこの問題に直面したことがあります。まだ弁護士になって日が浅いときでしたので、支払提示の段階で約束手形の記載事項がすべて記載されていたかどうか調査する必要に全く気が付かないまま、裁判を進めていたのですが、何気なく事務所の先輩弁護士が手形のことで話をしているのを聞いて、「そういえば」と思いつき、だめ元で調べてみたら、案の定、記載漏れのまま支払提示されていたことが発覚したことがありました。それまでは到底、勝ち目はない訴訟だったのに、それだけのことで勝訴したことはいうまでもありません。
 棚ぼたの勝訴ですが、反面、気づかないままだったらと冷や汗ものでした。本当にこんなことがあるのです。